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2012.04. 3 女子大生の就職活動(2011~2012年) (就職活動をしている学生との出会い)

 はじめに

 

就活をしている学生皆さんへ

 

 この本で書いた内容は、学生たちの就職活動についての話の「観察記録」です。学生たちの就職活動とかかわって三年以上になりますが、特に、平成二十三年度は、学生の皆さんの就職活動を見守り、直接かかわったので、感じたことなどを中心にまとめてみました。この「観察記録」がいま就職活動をしている人、これから就職活動をする人にとって、役立つものだと信じています。

この本は、「就職マニュアル本」ではありません。就職活動をしてきた学生の皆さんの「声」を中心にまとめたものです。就職活動が順調に進んだ「勝ち組」の人にはたぶん、必要ない本だと思います。自分の将来に不安を感じ、「就職どうしよう!」と心の中で叫んでいるあなたへのメッセージになることを願っています。「就職マニュアル本」を読み、「キャリアサポートセンター」で面談してもなお就職の決まらないあなたへのエールのつもりで書きました。

 

就職の相談にのるようになって、就活が単なる仕事探し以上のものであり、皆さんにとって、人生で初めての試練だと実感しました。就職の相談と言いながら、時には、それまで生きてきた自分を振り返り、家族との葛藤で涙を流した人もいました。就職活動は、大学入学までに経験した試練とはまったく違っていたようです。中学受験から大学受験までは、受験に関連した科目を一生懸命に努力し勉強を頑張ればいいことでした。私が話を聞いた学生の皆さんは、受験競争の中で必ずしも全員が「勝ち組」であったわけでもありません。しかし、受験勉強ですることはほぼ決まっていて、何をどれだけ努力すればよいか、わかっていたことでした。「自分が努力しなかったら、今の大学にいるだけだ」と思っている人が多く、「大学受験までの自分」から「新しい自分」に変わるべく、就職活動で努力しようとしていますが、どのように努力してよいかわからないと悩み、不安が高まるばかりの日々。そんな日々の中、エントリーシートに

「あなたの志望動機はなんですか」

「あなたの長所と短所を教えてください」

「あなたの人生の中で一番心に残っている体験はなんですか」

「自己PRをしてください」

という質問にどう答えて良いか、どうしてよいかわからなくなり、また、不安が大きくなります。受験で不安になった時、ひたすら参考書と問題集を解き続けて、心落ち着けることができたようです。しかし、就活では、どのような努力をしてよいか、何が基準で自分たちが採用されるのか、まったくわからなくなり、何をしてよいかわからず、ますます不安になります。そんな時には、大学の「就職ガイダンス」に行って、就活とは何かを聞くことになりますが、何かわかった気になりながらも、「大変なんだ!」と思って、自宅に帰ることが多いと思います。それに、周りが全員、黒のスーツに身を包み、「戦闘」態勢になっていると思ってしまい、

 

「自分だけが、遅れている」

と実感してしまいます。そして、「遅れている自分」をどうにかしなくてはいけないと思い、パソコンに向かい、「就職ナビ」で考えられる限りのすべての企業に「エントリー」をして安心しようとします。説明会の日程を手帳に書き込み、バイトと説明会で予定がいっぱいになり、忙しい春休みが始まる学生の皆さんの就職活動の日々。

 

その頃からずっと、就職相談で、さまざまな学生の皆さんの「声」に耳を傾け、その「声」を今就職活動している人、あるいは、これから就職活動をしようとする学生の皆さんに伝えることが、この本を書いた私の目的です。彼女たちの「声」に共感し、時には、癒され、就職活動が楽になり、そして、最終的に自分が希望する職業、企業に就職できることを祈っています。

 

 

 

「エントリーシート」って何ですか

 

四年ほど前、三月の春休みに大学に来ている学生の一人に声をかけました。

 

「春休みにどうして大学に来ているの」

「就活のガイダンスです」

「あ~、そうですか。就活、うまくいっていますか」

「あ~、もう大変です。どこに就職したいのかわからないし、志望動機を聞かれてもわからないし、どうしよう、先生」

 それから、二か月ほどして、また、学生の一人と話す機会がありました。

 「最近、就活どうですか」

聞かなくてもいいことをつい聞いてしまった私でした。大学に勤め始めた平成元年の学生たちにも同じような質問をしていたように思います。当時、そのような質問に対して、

 

「内定三つももらってしまったので、どれにしようか悩んでいます」

というものでした。あれから二十三年、バブル経済の崩壊があって、長く続く「女子大生の就職氷河期」という新聞記事は読んでいましたが、「いま、目の前にいる学生」のことだということさえ感じることもなく、

「就職活動、頑張ってくださいね。私にはどうしようもないですから。皆さんの問題ですから」

 

と、「他人事」として、答えていました。

「大学は勉強するところ、学問を学ぶところ」という考えに疑問を持つことはありませんでした。ですから、学生の皆さんには、

「私は社会学を研究しています。皆さんには、社会学的思考を学んでもらい、社会に出ても、ものを考える人になってもらいたいと思います。論理的にものを考え、批判的視点が身に付けられれば、どのような状況でも生きていけると思います」

と言って、ゼミで教えていました。この基本的態度は変わりませんし、いまでも正しいと思っています。しかし、それから続く会話の中で、学生たちの就職活動を手助けができればと思うようになりました。

 

「本当に焦っています。エントリートシートなんか書いても落とされるし、どうしてよいか、わかりません」

「エントリーシートって何ですか」

「先生、そんなことも知らないですか」

とあきれた顔をされました。そして、その学生から、彼女が行っている就職活動について、説明してもらいました。「エントリーシート」というものは、企業への志望動機を書き、自分をPRすることである、と理解した私は、

 「あなたは、ゼミでも素晴らしい発表しているし、レポートもうまく書けるひとだから、大丈夫でしょう。落とされるのは変ですね。落とされたというエントリーシートを見せてくれますか」

 

と言って、彼女が落とされたと言っていたエントリーシートを見ました。そして、その内容に唖然としました。「エントリーシート」が「自分を売り込む」手段であることを理解せずに、どこかで読んだ「就職マニュアル本」の典型的な文章が並べているだけの文章、その文章を読んでも、書き手の個性が全く感じられない文章、さらに、論理的につながっていない、文章を並べただけのものでした。その学生を傷つけるとも知らず、

 「あ~、これだったら、私でも落としますね」

と答えてしまいました。

 「だったら、先生、どんなことをどう書けば、通るのですか」

 「私は、就職活動のエントリーシートなど書いたことはありませんが、一緒に考えましょうか」

 

ということで、「エントリーシート」の請負人の役割をこの三年間ほど続けています。最初の頃は、一緒に考え、「修正したエントリーシート」はすべて通っていたので、百パーセント保証していましたが、最近、時々落ちることもあり、「百パーセント保証」の神話は崩れています。しかし、今でも、九十パーセント以上の確率で通る「エントリーシート」をそれぞれ個性を持った学生の皆さんと一緒に作成する作業をしています。この経験をして、「良いエントリーシート」という決まった答えはないと今は思っています。応募する企業を研究し、自分の経験を分析し、そして、本気でその企業に就職したいという熱意が生まれたら、その学生のエントリーシートは落ちることはないと思います。そのエントリーシートを作る作業は、単なる私という教員による添削作業というよりは、少なくとも一時間以上、ひとり一人の学生と、しっかりと話していく中で、学生自身が語る言葉を、文章に置き換えていく作業です。その意味では、学生一人ひとりとの対話から生まれる文章がエントリーシートだと思っています。もちろん、いったん話をして、学生自身が書いたエントリーシートを全く直すことなく提出し、通ったこともあります。その意味では最終的な添削、修正は、最後の仕上げとしては大切ですが、一番大切なことは、動機や自己PRについて、学生自身が語ることを聞き取ることではないかと思っています。

 

 さてここで、伝えたいことのポイントを整理します。

 

1.就職で不安をもって焦っているのはあなた一人ではありません。みんなそうです。

2. 大学入学までの経験は、受験というものが中心で、「答えがある」の世界だったのですが、それが通用しないのが就職活動です。

3.エントリーシートは、誰かのものを真似するのはなく、自分自身の個性とは何かを考え、自分を振り返るところから始めるべきだと思います。その一番いい方法がだれかに自分のことを語り、聞いてもらうことです。

 

 次の節では、学生の皆さんの就職活動のさまざまなストーリーについて書く前に、ここで対象になっている二十名について、四つのグループに分類してみたいと思います。分類をすることによって、読者のみなさんが自分がどのタイプなのかを知った上で、興味のあるストーリーから読み始めることができるのではないかと考えました。

 

 

就職活動のタイプ

 

二〇一一年度のゼミの学生の皆さんの就職活動を見ていて、四つのタイプがあると思いました。この本を読んでくれている就職活動をしている皆さん、自分がどのタイプかを考えてみてください。そして、自分と似ている人の話に耳を傾けてください。

 

 どのようなタイプになるかは、二つの質問にどう答えるかで決まるように思います。

第一の質問、

 「あなたは、どのような企業、どんな職種に勤めたいですか」

 

その一つの答え方として、

 「別にありません。ある程度知名度があり、安定していたら、どのような企業でも、事務でもなんでもいいです」

 

別の答え方としては、

 「私の志望する企業、職種ははっきりしています。それにしか興味ありません」

このように答える人の中には、CA(キャビン・アテンダント)、証券会社や商社の総合職をめざす人たちがいました。

 第二の質問。

 「あなたは、自分の性格をよく知っていますか」

その一つの答え方として、

 「私は、自分の好きなことしかできないタイプです」

 「私は、努力することに生きがいを見いだします」

 「私は、競争することが嫌いです」

 「私は、みんなと楽しくやれればいいです」

いろいろな答え方をしていますが、自分の個性がはっきりしていて、それを変えるつもりはないと思っている人たちです。

別の答え方

 「私って、どのようなタイプですか。自分でもわかりません」

「自分のしたいことなど考えてこともありません」

「私の長所とか短所とかわかりません」

いままで自分とはどんな人間かなど考えたこともなく、そんな自分にこだわりもない人たち。だから、「あなたはどういう人ですか」と質問されるとはっきりと自分を表現できないのです。

第一の質問と第二の質問を組み合わせると、図のような四つのタイプに分かれるのではないかと考えてみました。どうでしょう。あなたはどのタイプに属していると思いますか。

 

 

たぶん、一番多いタイプは、どんな企業、どんな職業に就きたいかわからず、自分が何をしたいかもわからず、ただ、就職活動の流れの中で、他の人と同じように活動する「みんなと一緒」タイプ(Ⅲ型)。このタイプの人はこれといって特定の企業をめざすわけでないし、自分が何に向いているかなど考えたことがない人たちです。大学に入学してから、大学の授業はそれなりに出席して、授業のない時間は、バイトをしている。そして、時には、友達と盛り上がって遊ぶ。そんな生活をしていたら、三年生後期になり、大学では、「就職ガイダンス」などが頻繁に行われるようになって、その時初めて、自分のことや自分が就職したい企業とはどんな企業なのか、と考えるが、あまり漠然としているので、いろいろな企業の説明会に出て、あらゆる企業にエントリートシートを送る傾向がありました。「どこでもよいから、内定がほしい」と思っていましたが、内定が決まるまでには、長い時間がかかったように思います。長い試行錯誤の結果、自分に適した企業、自分好みの企業と出会い、本気になって応募する頃に内定通知をもらうタイプです。

 

このタイプと対局にあるのは、「一直線」タイプ(Ⅰ型)。自分がどのような企業、職業に就きたいかはっきりしている人たちです。小さい時からの憧れであったCA(キャビン・アテンダント)やグランドスタッフなどは、小さい時からの憧れだったので、大学の学部を選ぶ時も、国際あるいは語学系を志望し、入学してきました。彼女たちの多くは、大学に通いながらも、航空職をめざす人のための専門学校にも同時に通い、その職業を「一直線」にめざしているタイプです。他には、自分の強みや好みをよく知っていて、「総合職」に就き、自分の個性を活かしたいと考えている人たちです。「みんなと一緒」対タイプとは異なり、説明会に行く企業もエントリーシートを送る企業も限っていて、数社しか提出しないタイプで、企業研究をしっかりして、早い時期から応募し、結果的には、早い段階で、内定を受け取る人たちでした。

 

 

 「自分追求」タイプ(Ⅳ型)の特徴は、希望する職種や企業はだいたいイメージできていて、その企業に応募しようとするのですが、就職活動する中で、その企業を希望することが自分の本当の望みなのか、と自分には何が一番向いているのであろうか、と考え、自分の生き方を考えるようになるタイプです。最初の頃は、みんなが急に就職活動をしているのを横目に見ながら、「自分はみんなとは違うのではないか」と思いながら、みんなと違った方法を模索するようになる。その模索して行くなかで、いろいろな人たちのアドバイスを受けながら、自分が本当に望んでいる生き方、自分にとって何が大切か、など、就職活動自体が「自分追求」の機会になり、将来を考えていきます。

 

 最後に、「マイペース」タイプ(Ⅱ型)の人たち。三年生の後期になって、就職ガイダンスなどで周りが騒がしくなっている頃、彼女たちもまた、就職ガイダンスには行ってみることはあったようです。そして、数社の説明会に行って、エントリーシートを提出しましたが、「落とされた」ので、就職活動を止めてしまった人たちでした。だからと言って、就職について、心配することもせず、大学生活を楽しんでいるように見えました。「就職活動をしていますか」と聞くと、「一応、やっています、あまり、熱心にはやっていませんが」と就職には無関心かのように答えていた学生たち。その中には、「別に就職しなくても生きていけますよね。フリーターとかバイトとかで」と答えることもありました。ただ、時がたち、ゼミ生の多くが内定を受け取った十月頃になって、「先生、やっぱり、就職活動することにしました」と突然言い出した学生たち。世間の動きなど全く関係なく、自分のペースで動く「マイペース」タイプの学生。ゼミの課題もそれほど頑張ることはなくても、ある程度きちんとこなしてくる。「頑張る」ということばは、彼女たちの辞書にはないのだろうか、とさえ思うことが多くありました。ただ、「このひとたちは、心配しなくても就職を決めてくるのだろうなあ」と思って、就職相談にものらず、そのような学生たちの行動を見守っていただけでした。すると、就職活動開始宣言から、二週間もしないうちに、「先生、一応、内定もらいましたので、報告します」と言ってきたこともありました。この報告もまた、淡々としたもので、まさにマイペースな彼女たちです。「なぜ、就職活動、突然始めたのですか」という質問に対しても、「まあ、みんなもやっているし、ちょっと、やってみようと思って」と。しかし、「内定」を受け取った時には、「ニッコリ」と笑顔。「あまり努力しなかったけれど、決まっちゃいました」とでも言いたげでした。時間をかけ、必死に努力した学生が落ち、このような学生が「内定」を簡単に受け取る事実を目の当たりにして、就職活動のわからなさを実感しながら、なぜ、このようなことになるのだろうかと考えてみました。

 この本では、それぞれの学生が、異なったタイプの就職活動を行っているのではないかという前提で、それぞれのタイプの背後にある、就職活動の実態を学生たちの「声」に耳を傾けながら、描いてみたいと思っています。

 

 四つのタイプ分けをして、全体像が理解できたと思い、そのことを楽しんでいる社会学者としての私の枠組みでは、まったくとらえることのできない、それぞれの学生の「人生のドラマ」が就職活動についての面談や雑談で明らかになったように思います。そんな「観察記録」と「学生自身の声」は、就職活動のマニュアル本やガイダンスでは知ることができないものだと思っています。そこには、二十二歳になった女性の生き方、社会人になるまでの葛藤があったのではないかと思います。

 

 次の章から、それぞれのタイプごとに具体的にかつ、詳しく書いていくつもりです。 さあ、まず、比較的就職活動がうまく進んだ「一直線」タイプの就職活動についての物語から始まります。

 

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