語られたストーリー
2011.02.18 ブロッコリーってゆでるの? 語り手 (女性 21歳 2009年取材)

 【あらまし】

 聞き手の中村愛加(仮名、21歳)は、「赤ちゃんできて結婚する」と突然連絡してきた友人、斉藤直美(仮名、21歳)の人生に興味を持ち、聞き取りに出かけた。わがままだけど、みんなから愛され、いつも天使のような直美だったが、20歳という若さで妊娠し、結婚して、妻になり、そして、母になった。そんな直美には、友だちにも言えない秘密があった。
 
●小見出し
 いつのまにか
 ケンカ
 肩ぐるま
 結婚式
 
いつのまにか
―悠くん(仮名)とのラブストーリー、話してよ。
 出会いは…私の同中の男(A君)が「今から遊ぼう」って言ってきて。そん時、Bちゃんと遊んどったもんで。「友達がおる」って言ったら、「じゃあ、こっちも誰か連れてくわ」って言って。連れてきた人が悠で、四人で、遊んだじゃんね。カラオケ行ったんだけど。そん時に色々話してて、「K中だよ」って言ったら。「俺もK中だよ」、「え! じゃあ、先輩じゃん」ってなって。そっから、「始めまして」て自己紹介して…なんか敬語になっちゃって(笑い)。
―先輩だもんね。
 そうそう、そうそう! そこで初めて先輩って分かって。そっから、メアド教えて、メールして。でも始めの方は、全然眼中になかった(笑い)。だから、メールきても、シカトして。そっけない態度とってて、結構ひどい扱いしてた。でも、悠からは(メールが)、きてたの。「またきた(嫌な顔で)」とか思ってて…(笑い)。
―ひどい態度だね(笑い)! じゃあ、第一印象わるかったの。
 印象は別に、ただの先輩どまり。この人とは、ないなって思った。全く運命感じるとかなかった。ビビビ! とか、まったくなかったなー。普通の友達っというか、知り合い…? どうせ遊んで終わるなーって思ってた。
―メール無視しつづけて、どうしてそこから結婚へ。
「遊ぼ!」ってすっごい誘われたやんね。悠の同級生(A君)と、私のタメの友達(Bちゃん)がいて、四人で毎日遊んでたやんね。そのうち二人(A君と、Bちゃん)は、付き合って。その二人が、すごい押してくるやんね。「悠が好きなんだけど、どう思ってるの」とか、言われてて。だから、好かれてることは、分かってたやんね。だけど、別に興味なかったんだけど。毎日会ってたら、色んな面が見えてきて、徐々に惹かれてったのかな。
―どんなところに。
 周りに気遣える人だなーとか、優しさだとか。好きだなーと思ったのは、何だろうな、あ! 自慢話じゃないんだけど(笑い)、悠の、同級生のもう一人(C君)からも「好き」って言われてて。同中の男子(D君)からも「好き」って言われてて。モテ期だったの! 三人から好きって言われとったやんね。私は、悠の友達(C君)がすっごいしゃべりやすくて、面白かったやんね。
―じゃあ、心はそっちよりだったの。
 そう、そっちよりで。「今どうなの」って相談のってもらってたのに、告白されて。えー! 何この展開! ってなって。みんなで遊んだりしとって。でも、同中の男子(D君)が、嘘つきで、「今(悠が)女とメールしてるよ」とか、「女と遊んどるよ」とか。めっちゃ言ってきたの!(えー!)
それで私が、何それ! って怒ってんの。別に、怒んなくてもいいはずなのに、すっごい怒れて。なんか、それで、悠に対して気になってるのかなって。
―気になってるC君は、どこ行っちゃったの。
 C君、ほんとは、最悪な人だった(笑い)! みんなが好きって言うもんで、じゃあ俺も告ってみようっていう感じだったの。
―うわー! よかったね。ひっかかんなくて。
 見る目ないもんでさー(笑い)!
―もう一人のD君はどうなったの。
 Dは、もう友達にしか見えなくて、ない! って思ってたの。ほんで、(悠のこと)色々いってくるもんで、嫌になっちゃって…断って。それで、悠のこと気になっとるのに気づいて…って感じかな。ほんとに、いつのまにかって感じだった。
―どれくらい付き合ってたの。
 二年。
―一回別れたよね。
 別れたのは、三か月の時。停滞期の時に私が、嫌になっちゃって(笑い)。でも、いざ離れてみるとやっぱり寂しくて、存在に気付いた。
―何が嫌だったの。
 私が飽きやすいタイプだもんでさ(笑い)。あと、悠が重かった。
―どんな所が。
 付き合ってすぐに、女のメモリーを全部自分で消しとって…。
―それって嬉しくないの。
 嬉しかったんだけど、「直美の男のメモリも消して」って言ってきたやんね。でも、「それは、友達だから消せん!」って喧華になって。重いなーって嫌になっちゃって。あと、O高校の人(まえ直美が好きだった人)が、その時に「遊ぼ」って連絡してきて、悠よりもそっちにゆらいだりもした。
―そうなんだ! で、どうなったの。
 うん(笑い)、でも、やっぱりそいつもわるい奴で、彼女がいたの! で、終わった。しかも、嫌なこと言われた…。「化粧が濃い」って。
―彼女がいたってことは、いつ知ったの。
 それはずっと後。共通の友達から聞いた。
―相変わらずダメンズだったね。
 そう! ほんとに見る目なかったんだよー!! 男は、顔じゃなくて中身なんだって、その時思った。
―結婚への鍵は、顔。
 そうかも! 私、ずーっと面食いだったからねー(笑い)。
―一回別れてからは、ずっと順調。
 うん! 順調だったね! 別れ考えたこともなかったし。停滞期も一回も来なくて。ずっと好きって感じだった。
 
ケンカ
―悠くんと合わないとこあった。
 価値観の違いだと思う。悠の育ってきた環境とさ、自分の育ってきた環境が、まるで違うもんで。考え方も変わってくじゃん。例えば、こっちが、こういう風じゃん! て思ってても、悠はこういう風だ! って自分の考えがあるじゃん。それが、すれ違うと、もうやだーってなる。
―例えば。
 私は、お金に困って生きてきてないじゃんね。でも、悠は、あるんだって! 結婚前日にも喧嘩したんだけど…「もう結婚しない!」ってなったの! 実は。
―えー! 結婚式の前夜に?!
 そう! なんで、そうなったんだろう…なんだったかなー? たぶん、悠の親のことだったんだけど。何がその時嫌だったかは、覚えてないんだけど…結婚式の費用って高いじゃん? だもんで、向こうの親に、「やらなくてもいい」て言われて。お金がないから、挙げれないって感じだったのかな? 分かんないけど…乗り気じゃなかった。
 でもうちの親が、「式を挙げさせてあげたい」って言ってくれて、挙げることになったけど。向こうの親が、「半分半分で」って言ってきて。それは、「分かりました」ってなったんだけど。
 でも、向こうの方が呼ぶ人数多いもんで。普通は、向こうが多く払うやんね。7対3くらいかな? うちは、そういう考えやんね。でも、向こうは、違って。「別に、半分半分でいいじゃん。同じ結婚式を、同じようにするんだから。半分半分で払えばいいじゃん」って。
 自分たちの価値観だけじゃなくて、親の価値観も違って。とりあえず私は、向こうの親が好きじゃなくて…それを悠に言ったの。でも、悠は、自分の親だもんでさ、「なんでそう言うこというの」ってかばうじゃん? で、喧嘩になって、悠も、うちの親のこと逆に言ってきたから…。
―どんなこと言われたの。
 なんだったかなー…なんかねー、「直美んちは、お金がなくて困ってないかもしれんけど、うちは、お金がない!」とか言われたかな。
―そんなに貧乏なの。
 って言うんだけど、毎日お酒飲んでるじゃんね。その分のお金は、どうしてるの? ってなるじゃん? それを、「喧華して、ストレスたまるもん、飲まんとやってけんわ!」とか言っとって、かばうじゃんね。でもそんなに、「お金がない」って言うだったら、ちょっとぐらいお酒我慢して、お金貯めればいいじゃんって思って。とりあえず、お互いの親の悪口の言い合いをしたわけ!
―それが結婚前夜?!
 そう! そいで、もう嫌だ! ってなって実家帰って。お母さんに、「もう結婚したくない!」って言ったの。結婚って、向こうの家の子になるってことじゃん。だから、ほんとに嫌で、そのまま実家帰っちゃったの(笑い)!
 お母さんの話を冷静になって聞いたら、私、子供妊娠した時に、親に…あ! ごめん! これ言えない!
―え?! なになに?
 ……私、実は、一回おろしてるじゃんね。
―え?! いつ?
 えっと、カイ(仮名)を妊娠する一年前、におろしてて…その時は、私の意志が弱くて…うちらは、嬉しかったの! 「どうしよう…でも、うれしいね」って言ってて。とりあえず、悠の親に言ったの。そしたら、「ほんとー」って、認めてはくれたの。その時に、(悠は)次男なのに、「直美ちゃんが、うちに来るなら家引っ越さんといかんね」って言われて。え?! 一緒に住むの?! って思ったやんね(笑い)。でも、とりあえず、認めてくれとって。次に、うちの親に言う時に、すっごい号泣されて、「こんなに大切に育ててきたのに…」って、泣かれて。
―その時って、まだ十九歳ってこと。
 うん。十九歳。大学はいってすぐ。だから、猛反対されて。勝手に全部決められて、病院連れていかれて。そのままおろす日にちを勝手に決められた。でも、私は納得してなかったの。認めてほしかったけど、どうすることもできなくて。話をどんどん進められてっちゃって…。自分がもっとしっかりしてれば、守れたんだけど。その時の自分には、守れなくて、おろした。
―おろした時、悠くんはなんて。
 その時、まだ学校通ってたし、悠も守れんかったもんで。「責めるなら、自分じゃなくて、俺のことせめていいよ」って言ってくれた。
―手術、いたかった?
 ううん。麻酔しとるもん、全然。麻酔して、すぐに意識がなくなって、寝てた。手術終わってから、目が覚めたの。麻酔がぬけるもんで。でも痛みはなくて、軽く麻酔が残ってて。目はなんとか、うっすら開くんだけど、体が全く動かなくて。看護婦さんに抱えられて、ベッドで寝たやんね。そいで、意識がもうろうとしてたから、また寝ちゃって、そしたら、夢をみたの。
 
肩ぐるま
―どんな夢。
 すっごい不思議なんだけど、「おぎゃー、おぎゃー」って聞こえるもんで。どっかで、赤ちゃん産まれたんだーって思って。よかったなーって思ってたの。そしたら、そのまま寝ちゃって。そしたら、すっごいきれいな青空が出てきて、きれいな青空だなーってみてたら、あかちゃんの笑ってる顔がパって出てきて。
 その顔が、どんどん空に向かって消えてって。あれ? って思って。ぱっと前みたら、悠が男の子の赤ちゃん肩車して、二人でこっちに歩いてきたの。そこは、東山動物園で、悠が赤ちゃん肩車して、こっち近づいてきて、私と合流して、三人で動物みてる夢をみたの。
 そしたら、目が覚めて、目の前にお母さんがいたの。「大丈夫」って聞かれて、「大丈夫だよ」って答えて。「今、赤ちゃんの泣き声聞こえたね。誰か産まれたんだね」って言ったら、「聞こえなかったよ」って言われたの。
夢の話をお母さんに話したら、お母さん泣き崩れて、号泣してて。看護婦さんに聞いたら、「赤ちゃん産まれてませんよ」て言われて。悠に聞いたら、「俺も聞こえたけど」って言ったの。「俺が廊下で、ボーっとしてたら、赤ちゃんの泣き声が聞こえたから、あー産まれたんだって思ったよ」って。うちらにだけ、聞こえたやんね。
―すごい!
 そう。動物園はさ、妊娠してから出かけたのが、東山動物園で。それが、最初で最後だったやんね。それで、夢に東山動物園でてきたもんで、ほんとにびっくりしてさ。悠に話して、二人で泣いた。「うちらにだけ聞こえたね」って。
 ほんで、一年後にまた妊娠して、出産予定日が、まったく一緒だったの。これは、絶対奇跡だよねってなって。今回は、絶対に産みたいって思ってさ。家でる覚悟で、「縁きってでも、この子を守りたい。認めてくれなくてもいいから、産む」って言ったら、やっと認めてくれて…。
 「縁きってでも、大好きな人との子供を守るって決めたんだから、その時の気持ちを忘れないで、がんばりなさい」って言ってくれて…ごめん、すっごい話飛んじゃったんだけど…それで、結婚前夜に、「悠くんの事が大好きで、大好きな人の親なんだよ。その人が、産んでくれたんだから、感謝しなきゃいかんよ」って言われたの。だから、納得して、がんばって好きになろうと思って…。でも、好きじゃないけど(笑い)、やっぱり、悠を産んでくれたし、育ててくれたから、感謝はしてるかな。
 
結婚式
―妊娠発覚して、すぐ結婚式だったよね。
 そうだね。発覚して、親に認めてもらって、結婚式を決めて、一か月で挙げたの。悠は、会場の花とか演出とか、「直美の好きにしていいよ」って言うんだけど。それを、司会者さんとかが、「いい旦那さんだね」って言ってくれるんだけど。私的には、あんま乗り気じゃないのかな…って思えちゃって。
 それでちょっと、イラってしちゃったじゃんね。だったら、私も何でもいいよって。結婚式の決めるのとかも、見るからに、テンションが下がってて、そこで、向こうの親をかばってるのかなーって思えたし。それで、いっぱい喧嘩した。
―結婚式当日は。
 緊張して、死ぬかと思った。でも、悠見たら、もっと緊張しとって、笑えた(笑い)! お父さんも、お母さんも、私よりも泣いてた。恥ずかしかったけど、楽しかった! もう一回挙げたい!
―結婚生活ってどう。
 やっぱ楽しいよね。毎日好きな人と一緒におれるし、楽しい。付き合ってた時、うちの親が厳しいもんでさ、親からメールがきて、いつ帰ってくるの? とか、早く帰ってきなさいよ、とか。それを相手に言うのもさー、言いにくいし。縛られてるじゃん。やっぱり。でも結婚したら、ずっと一緒におれるし、楽しい! 本当!
―結婚して学んだことは。
 う~ん…そうだ! 私、本当に料理できないんだけど。結婚してから、ブロッコリーゆでること知ったの。
―えー!!
 ほいでさ(笑い)、ブロッコリー、こうやって、普通に切ってて、そのまま、盛りつけてそれを出そうと思ったら、悠がさ、突っ立とって、「え? それそのまま出すの」って言われて。「え? そうだよ」って言ったら、「ねえ、それゆでるんだよ」って言われて。「え?! ブロッコリーってゆでるの」ってなったの。ひどいだら? そんなことがあった(笑い)。

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運営:椙山女学園大学国際コミュニケーション学部「ライフストーリー文庫~きのうの私~」編集室