語るグループ

カテゴリ:HOME研究論文

2013.04.30 ライフストーリーセンター構築によるストーリーの社会学的研究
第1章 本研究の概要と現状
(塚田 守)

1.研究目的

 「ライフストーリーセンター構築によるストーリーの社会学的研究」は、個人が自らの言葉で綴った「自己のライフストーリー」とインタビューによって聞き取られた「他者のライフストーリー」を収集しデジタル化した上で、分類、インデックス化することで、ライフストーリーのアーカイヴを構築し、一般に公開するためのライフストーリーセンターを創設することを目的とした。そのセンターに多様なライフストーリーをアーカイヴ化し、研究者には研究するためのデータを提供し、一般の人びとには「自己のライフストーリー」を書く機会と「他者のライフストーリー」を読む機会を提供し、自らの人生について再考する場を提供しようと考え、このプロジェクトが2010年4月から始められた。

2.ストーリーのアーカイヴ化の現状

 研究開始の2010年において、海外では、データのアーカイヴ化への動きはさまざまな分野ですすめられていたが、Denshoに代表されるような日系アメリカ人の歴史に限定したアーカイヴ化、海外のオーラルヒストリー・プロジェクトを実施しているセンターでは、「個人のライフストーリー」をデジタル化し、映像あるいは文章でアーカイヴ化し、歴史的記憶として記録する試みが行われている。たとえば、アメリカのBaylor University, Institute for Oral Historyがそれにあたる。また、南メイン州立大学のLife Story Centerでは歴史的な記憶を記録として残すために、訓練を受けた学生がインタビューをしたストーリーをアーカイヴ化し、一般の人びとに公開している。
 しかし、日本においては、人びとのストーリーをアーカイヴ化する試みは、一般的には、特定のテーマに基づいたものに限定されたものである。たとえば、神戸大学の異文化交流センターは外国人労働者のストーリーをアーカイヴ化しているが、それは、一般の人びとに公開されることを目的とせず、実態調査のためのアーカイヴ化である。また、「戦争体験放映保存の会」のように歴史的記録として、戦争体験の継承を目的として、映像による証言を保存しようとしているところもある。2013年の時点で、広くアーカイヴ化を行っているDPIXx Japanは、ガン患者の語りを映像でアーカイヴ化している。
 個人のレベルでのアーカイヴ化の例として、北星学園大学の吉田氏による『オーラルヒストリーの映像アーカイヴの構築及びウェブ上での公開に関わる諸条件の研究』(2007年)がある。海外でのアーカイヴ化を実践している例を紹介、参考にしながら、それらを、大学のホームページに、北海道におけるアイヌの人びとの歴史と現状について映像を用いたインタビューをアップしている。このような試みはまだ日本ではあまり行われていない。
 機関のレベルでは、たとえば国立公文書館アジア歴史資料センターが行っているような、歴史的ドキュメントのアーカイヴ化は、予算的措置とアーカイヴ化の専門家がかかわることで、広く利用できるようになっているようである。また、香川県立文書館でも、公文書に関するアーカイヴ化は進んでいるようである。しかし、社会学研究で求められているような質的データのアーカイヴ化は、あまり進んでいないようである。「質的データ・アーカイヴ化」の現状に関する全国実態調査は行われたが、その中間発表でも、質的データを共有するアーカイヴ化の問題点は多く指摘されている。どのような問題点があるかは、この調査の分析結果に期待したい。

3.アメリカにおけるアーカイヴ化の試み:南メイン州立大学のライフストーリーセンターの場合

(1)設立の趣旨

 ライフストーリーセンターは、その設立趣旨を次のように述べている。
人はだれでも自らが生きてきた「人生」について重要なストーリーをもっているという信念に基づいて設立。センターはこの20年間、人びとのライフストーリーを称賛し、全ての世代の間でライフストーリーを共有することで「コミュニティの絆」を強化することをその使命としてきた。すべての世代、多様な背景をもつ人びとのライフストーリーを記録し、保存することによって、この使命を果たしてきた。そして、また、このセンターは、お互いのライフストーリーから学ぶことに興味をもつすべての人びとの出会いの場を提供する役割も果たしている。

(2) センターの最初の10年の歩み

 The Center for the Study of Lives(生活研究センター)という名前で、ロバート・アトキンソン氏が南メイン州立大学「教育と人間発達学部」の一つ部署として、大学の運営委員会の下、個人の研究室に1988年に設立。1998年頃までには、約200のライフストーリーを保存している。
 それぞれのライフストーリーは、アトキンソン氏が担当する大学院の授業「ライフストリーリー、個人的神話の創造、精神的発達(HRD 693 Life Stories, Personal Mythmaking, and Spiritual Development)の課題の一つとして、学生がインタビューを行い、それをライフストーリーとしてまとめ、課題レポートとして提出されたものを、アトキンソン氏自身あるいは助手の大学院生が編集、校正して、ホームページにアップするという方式をとっている。この大学院の授業では、カウセラーをめざす大学院生が多く、日本の学生よりは、はるかに年齢層が高く、多様なストーリーがアーカイヴ化されている。最近は、プライバシーの保護の意識が高くなり、課題として提出された者のうち、およそ3分の1程度しか、掲載同意書に同意していない状態であるが、センターは20年以上の歴史をもっており、アーカイヴ化されたストーリーの蓄積は270以上になっている(アトキンソン:2013年3月4日)。アーカイヴ化されたストーリーには、①インタビューされた人物の名前、②性別、③出生地、アメリカの州あるいは国名、④インタビュー時点での居住地、⑤民族、⑥インタビュアの名前が書かれている。
 10周年記念として、全国のライフストーリーのアーカイヴ化を評価する代表的な人による講演会が行われた。
    On October 1, 1998, Derald Wing Sue, an Asian-American counseling psychologist
   at California State University, Hayward, spoke on
   “How Truthful Narratives Heal and Connect.”
   This was followed on Friday, October 2 by an interactive discussion group with
   Dr. Sue and community members on the topic, “Healing and Connecting through
   Narratives in Asian-American Community.”
   On October, 15, 1998, William Ferris, Chairman of the National Endowment for the
   Humanities, spoke on “Culture and the Voice of Wisdom.” Read his keynote speech
   for the Center's 10th Anniversary.
   On October 29, 1998, Sara Lawrence-Lightfoot, an African-American professor of
   education at Harvard University, spoke on “Remembering a Life the Way it Really Was.”

(3)センターの2008年から現在までの展開

 2008年、20周年を記念して、ナラティヴやライフストーリー研究が社会的に認知された段階で、センターの名前を「生活研究センター」(the Center for the Study of Lives)から「ライフストーリーセンター」(the Life Story Center)に変え、個人のライフストーリーを保存し、共有することの重要性をさらに強調する方向に転換していった。そして、20周の記念として、ベストセラー作家、研究者、カウンセラーであるトーマス・モアが、“Narrative, Dream, and the Life of the Soul”(「ナラティヴ、夢、魂の生活」)という講演を行い、それをデジタル保存した。
 具体的にウェブページの展開と修正が行われた。
 まず第1に、投稿が自由にできるインターアクテイヴなウェブページに修正することにより、一般の人びとからの投稿が可能になり、そのアーカイヴ化されたライフストーリーのキーワードによる検索も簡単になり、センター自体がウェブ時代の変化に伴って発展した。そして、センター長であるアトキンソン自身はブログを書き始め、今考えている本や論文に関するエッセイを継続的に掲載している。また、文献として、ライフストーリーを書く方法などに関する文献などもセンターに掲載し、ホームページを閲覧した人が、どのようにライフストーリーを書くかの参考にできるようにしている(The Gift of Stories, 1995、 Heart and Craft of Lifestory Writing 2007など)。
 次に、全国的ネットワークの展開として、2008年、センターの設置場所を「教育と人間発達学部」の個人の研究室から、南メイン州立大学のポートランドキャンパスに設置された新しいウィッシュキャンパーセンターにあるThe OLLI(the Osher Lifelong Learning Institutes) National Resource Centerに移転され、アトキンソン個人が運営する段階から専門スタッフが運営業務を行うようになった。The OLLI National Resource Centerは、バーナード・オシャー財団が高等教育と芸術を財政支援する一環として設立されたもので、2011年現在、全国に117の支部がある。それぞれの支部が設立する時に、財団が財政補助し、その後は、それぞれのOLLIが独立採算制で運営している。その中で、ライフストーリーに関する活動は重要な部分を占めており、雑誌として出版されている OLLI Review は、2010年で5巻が出版されている。アトキンソンは、そのライフストーリー部門の編集責任者の一人でもある。
 以上まとめると、
   ① このライフストーリーセンターは、ライフストーリーを聞き、書き、共有することの重要性に対する
   信念に基づいて、展開されている。
   ② 20年前に設立されたセンターは、一つの大学の研究室から始まっただけであったが、
   今は全国的展開を果たしている。生涯教育(Lifelong Learning)の一部として評価されている。
   ③ 普通の人のナラティヴやライフストーリーに関する興味が広がり、ライフストーリーセンターが
   目指しているものを、デジタル化し保存したもの、全国レベルでの記録のアーカイヴ化、
   さらに、動画という方法でのデジタル化が進んでいる。

4.ライフストーリーのアーカイヴ化の試み:「ライフストーリー文庫~きのうの私~」

(1)このホームページ創設のきっかけ

 本プロジェクトは、ロバート・アトキンソンのライフストーリーセンターの試みをベースに設立されている。本プロジェクトの助成金2010年度基盤研究⒞(一般)として「ライフストーリーセンター構築によるストーリーの社会学的研究」が採用されたことで、日本版のライフストーリーセンターの設立が考案された。
 研究代表者の塚田は、ロバート・アトキンソン著『私たちの中にある物語』(The Gift of Stories)を翻訳する過程で、ライフストーリーセンターの考えに共感し、アトキンソンのライフストーリーセンターを訪ね、センターのシステム構造、運営方法、特徴に関してフィールド調査を行い、ウェブ上にストーリーをアーカイヴ化する技術とノウハウを学んできた。
 そして、いままでライフヒストリー研究を行っている横家純一、川又俊則の共同研究者とともに、ライフストーリー・インタビューで聞き取られたストーリーと授業で課題として書かせている「自分史的エッセイ」を、塚田の個人研究室に属するホームページにアーカイヴ化し、ストーリーを公開し、一般の人びとにストーリーを読む機会と同時に、書く機会を与える場を構築することとした。ホームページを「ライフストーリーセンター」と呼ぶと、大学全体のさまざまなセンター組織と混同されると思われたので、「ライフストーリー文庫~きのうの私~」として、2011年3月に創設された。

(2)ライフストーリー文庫~きのうの私~」の創設とその後の展開

 「ライフストーリー文庫~きのうの私~」のトップのページに以下のように書き、その創設の趣旨と意味について触れている。
    人は「ストーリーを語る動物」であると私たちは考えます。人はストーリー形式で考え、話をしています。
   そして、ストーリーを語ることを通して人は人生に意味を与えているのではないかと考えます。
   その意味でストーリーは私たちに何かを伝え、促し、教え、導いているのではないでしょうか。
    ストーリーを語るということは私たちが生まれながらにもつ欲求であり、権利であるとも言えます。
   私たち自身のストーリーを語ることで、私たちの声が他の人びとによって聞かれ、認められます。
   私たちは、他の人びとが聞きたいと思う「私たちの声」を見つけたいと思っているのではないでしょうか。
   私たち自身のストーリーを語ることによってのみ、私たちの真実が語られることができるし、
   私たちの人生の「意味」が理解されるのではないでしょうか。
    人は、他の人に声に出して語ることもあるだろうし、「内なる自分」対して「書く」という行為で語ることも
   あるだろう。人は、ストーリーを語り、自らをより理解し、また、他人に理解され共感される喜びを得る
   ことができる。自らのストーリーを語ることは自分自身への「贈り物」であると同時に、他の人びとへの
   「贈り物」になると私たちは信じています。あなたのストーリーを語りましょう。
 このような趣旨を示した上で、「ライフストーリー」の意味について触れ、読者への呼びかけをしている。
     「ライフストーリー」は、人生の物語です。自分の人生を書くこと、あるいは他人の人生を読むことは、
   私たちの人生を豊かなものにします。自分の人生の「生きている意味」を理解し、「人生を変える」
   きっかけになるからです。私たちは、学生から一般の方々までの皆さんの様々な人生を綴った自分史
   やエッセイ、インタビュー記事をホームページ上に公開し、多くの人たちと共有したいと考えています。
   と同時に、社会学の研究者として、「当事者の声」を重視した研究に役立てたいと期待しています。
 そして、具体的に3つの目的をもって設立された。

 A: 一般の人びとの「人生の物語」の公開:創設時とその後
 「ライフストーリー文庫:きのうの私」の第1の目的としていることは、さまざまな人びとの「人生の物語」を収集しデジタル化し、一般に公開することであった。そのためウェブ上にホームページを作成し、そこに本プロジェクトの共同研究者たちが行ったインタビューから構築された「他者のライフストーリー(「語られたストーリー」と呼んでいる)」と授業などを通して収集された「自己のライフストーリー」(「自分史的エッセイ」と呼んでいる)を掲載、公開し、「人生の物語」が一般の人びとに読めるようにし、それぞれの「人生の物語」から何かを感じ、学ぶ機会を提供したいと考えた。
 プロジェクト開始当初の枠組みとしては、公開する物語のタイプとして、①「自分史的エッセイ」、②「語られたストーリー」、③「グループで語られたストーリー」、④「グループで書かれたストーリー」であったが、本プロジェクトを進めるなかで、③と④のデータ収集は極めて困難であったので、その分類を修正し、③を「テーマシリーズ」として、本プロジェクトの研究者が行っている特定のテーマ(就職活動に関わるものなど)として、新しい掲載分野を設置し、読者によりアピールするものとした。また、④は「研究論文」とし、本プロジェクトを通して得られた研究成果を公開することにした。

B: 自ら書いた「人生の物語」の投稿の場
 第2の目的としては、この「文庫」では、さまざまな人びとが自分の「人生の物語」を書くきっかけとしての役割をはたし、「書かれたライフストーリー」を投稿する場を提供することを、創設当初は考えた。自分の「人生の物語」を自分自身のためだけに書くこともあり、それはそれで本人にとっては意味あることであろう。だが、「自分史ブーム」に見られるように、自分の「人生の物語」を「後世に残したいために」書いたり、「自分のアイデンティティを求めて」書いたりする場合もあるので、それらを投稿してもらうシステムを作った。これはアトキンソンの「ライフストーリーセンター」が20年前から始めたことで、ある程度の成果を上げているという事実に基づいて行われたものであった。
 しかし、実際には知人からの問い合わせが1件あった以外は、投稿はゼロであった。この結果は本プロジェクト計画当初の意図からは予想しなかったことであった。なぜ、投稿サイトがうまく機能しなかったかについて、3つの説明が考えられる。
 1つの説明として、近年の個人的ブログやソーシャルネットワークの普及により、他人が作り作ったホームページへの投稿は魅力のないものと思われたのではないか。自分の個人的なエッセイは、ブログやソーシャルネットワークで自ら発信すれば、友人からのフィードバックがすぐに返ってくるが、他人の投稿サイトに投稿したからと言って、フィードバックが返ってくるわけではないので、投稿する動機が生まれなかったのではないだろうか。
 2つの目の説明としては、極めて個人的なストーリーを他人の投稿サイトに投稿する気にならないのは、プライバシー保護の視点からも当然のことと言えば当然のことであった。投稿を誘うことを目的として、カルチャーセンターで行われている「文章・自分史講座」を訪ね、センターの趣旨を説明したが、そのグループからの投稿は結果的にはゼロであった。その講座で書かれ、発表されていた「エッセイ」は、「人生の物語」のように、今の自分を振り返り、人生について考えるというものではなく、日常的な出来事の断片をエッセイとして、うまく書くことが目的とされたものであり、本プロジェクトの「人生の物語」の投稿募集の趣旨には合わないものであった。本プロジェクトが期待するようなエッセイは、人生を真剣にふり返る「人生の物語」と呼ばれるものであり、そのようなものには、プライバシーの問題が生じる可能性があるので、人びとは他人のホームページに敢えて投稿することはなかったのではないか。
 3つの目の説明としては、「エッセイ」の投稿を動機づけるために、「エッセイコンテスト」的な形式を取っていることもホームページ上で謳ったが、有名人が審査し、多額の賞金を懸け、本としての出版の可能性がある「北九州市自分史文学賞」のようなものと比べると、本プロジェクトには、投稿するだけの魅力はなかったのであろう。
 以上、「文庫」創設の当初の目的であった「書く機会を与える」という試みは、1年後には、断念された。

C: ライフストーリー研究の交流の場
 第3の目的としては、このセンターで公開された「語られたストーリー」と「書かれたストーリー」を研究対象として、ライフストーリー研究の交流の場を提供することである。人びとの多様で豊かな「人生の物語」を研究し、「語り手の視点」「書き手の視点」を重視する、新しい社会学的研究の可能性を求めてこれを「文庫」の第3の目的として、ライフストーリー研究に関する理論と方法論についてのさまざまな研究者の交流の場としたいと考えていた。
 本科研のプロジェクト期間3年間で43本のストーリーを掲載し、分析できるだけの蓄積ができてきたので、本報告書においても、掲載されたストーリーを利用した社会学的研究の試みを行っている。その報告書を「文庫」に掲載し、研究の方法論、理論に関しての問題提起をするつもりである。

(3)「ライフストーリー文庫~きのうの私~」の現在と今後の可能性

 人びとの多様な「人生の物語」のライフストーリー・インタビューを通して収集すると同時に、共同研究者の授業で学生に書かせている「自分史的エッセイ」を収集し、アーカイヴ化を進めているが、多様性、全体的量の点から見て、まだ不十分である。しかし、その限られた「人生の物語」は大学教育の一環として、授業で有効に使われている(「ライフヒストリー研究」での実践例は第7章で論じられている)。
 現在アーカイヴ化されているすべての「人生の物語」に関しては、「検索機能」を導入し、キーワードを入力することによって、見つけることができるようになっているので、利用者が使いやすいようになっている。
 今後の展開の可能性について述べておく。
 まず、アトキンソンの「ライフストーリーセンター」のアーカイヴ化されたストーリーは270を越える。本研究はまだ、43のストーリーしかアーカイヴ化されていない状態であるので、今後増やす方向で展開すべきであろう。量的に拡大することでより多様なストーリーを取り入れることができるであろう。
 第2として、2年目からの実験的試みとして、「テーマシリーズ」を一つの分類として設けている。この「テーマシリーズ」の分類を活用し、いま話題になっているテーマに関したストーリーを集中的にアーカイヴ化することで、「ライフストーリー文庫」の多様性と魅力を増し、一般の人びとへの公開がよりすすむのではないだろうか。
 第3として、アーカイヴ化は個別に行われている研究をデータとして蓄積する試みである。質的データのアーカイヴ化の問題点は多く指摘されているが、それらの問題を解決し、アーカイヴ化を進めることで、新しい形の研究の交流が可能になるかもしれない。
 第4として、現在、「ライフストーリー文庫~きのうの私~」のアクセスは平均30ほどであるので、3年間でおよそ30,000のアクセスがあったのではないかと推測される。この数値はまだ大きいとは言えないが、ストーリーの数が増え、多様化された段階で、人びとに知られることになった場合には、大きく変化するのではないかと思われる。
 第5として、「語り手の視点」「書き手の視点」を重視する社会学的研究はまだ歴史は短いが、それを実践し、ウェブ上で公開し、示していくことで、研究の交流が起こる可能性がある。本報告書でも、その一つの試みとして、2つの「自分史的エッセイ」を例として、「書き手の視点」をベースにした社会学的研究の試みを行っている(第7章「女子高文化―キラキラした彼女たちの中で」、「今までお嫁さんになるために勉強してきたの?」の社会学的分析の試みなど)。そのような「書き手」「話し手」をベースにし、ストーリーそのものを独立したテキストとして提示した上で、別に、社会学的分析を試みるという、ストーリーの社会学の新しい試みを展開できるのではないか思われる。

 

参考文献

アトキンソン、ロバート、2013年3月のインタビュー
アトキンソン、ロバート、2006、『私たちの中にある物語』ミネルヴァ書房
フォーラム、2012、「質的調査データの公共性とアーカイヴ化」、一橋大学口頭発表
吉田かよ子、2007、『オーラルヒストリーの映像アーカイブの構築及びウェブ上での公開に係
 わる諸条件の研究』平成16年度~平成18年度科学研究費補助金(基盤研究⒞)研究成
 果報告書
 

pagetopへ

運営:椙山女学園大学国際コミュニケーション学部「ライフストーリー文庫~きのうの私~」編集室